こんにちは、マーケティング部のおさいです。
今回は、ChatGPTの生みの親であるサム・アルトマンが語る、「起業で成功する12の秘訣」を紹介します。
サム・アルトマンは、現在、ChatGPTの開発元のOpenAI(オープンエーアイ)のCEOをしています。ですが、以前は、YコンビネーターというベンチャーキャピタルのCEOもしていました。
Yコンビネーター(ワイコンビネーター、Y Combinator)は、スタートアップ企業に投資している世界トップレベルのベンチャーキャピタルです。(※「スタートアップ」というのは、「テクノロジーによるイノベーションを生み出して、急成長を目指す企業」のことです。)
また、Yコンビネーターは、「スタートアップ・スクール」という、独自の起業家育成プログラムを提供していることでも有名です。Yコンビネーターが投資・育成して大成功した企業のなかには、下記のような、有名なIT企業がたくさんあります。
Yコンビネーターが投資・育成して大成功した企業の一例
- Dropbox(ドロップボックス)(オンラインストレージ)
- Stripe(ストライプ)(オンライン決済)
- Instacart(インスタカート)(食料品配達サービス)
- Airbnb(エアビーアンドビー)(空き部屋レンタル)
などなど
今回紹介するのは、そのYコンビネーターをCEOとして率いていたころのサム・アルトマンが、Yコンビネーターの「スタートアップ・スクール」での講演で語った、「起業で成功する12の秘訣」です。(その講演を撮影した動画の内容を紹介します)。
今回の話で、サム・アルトマンが対象としているのは、テクノロジーをあつかうスタートアップ企業です。ですが、もし、あなたのビジネスがテクノロジーをあつかうビジネスでなかったとしても、世界の最前線で活躍しているスタートアップ企業を成功に導くための「秘訣」からは、学べることも多いだろうと思います。
また、サム・アルトマンが語っている話の補足情報として、他の起業家たちが、動画や本で語っている「起業の秘訣」も紹介しますので、そちらも参考になるかと思います。
(※この記事では、話をわかりやすくするために、サム・アルトマンや、その他の人たちが語っている内容を、意訳・要約したり、中略したり、補足を加えています。また、わかりやすさを優先しているため、厳密ではない説明になっているところもあります。また、参考文献の本からの引用文については、要点を分かりやすくするために、引用者が引用文の一部に文字装飾を加えています。)
サム・アルトマンが語る、起業で成功する12の秘訣
この下の動画が、サム・アルトマンが、Yコンビネーターの「スタートアップ・スクール」で語った、「起業で成功する12の秘訣」の動画です。(※Yコンビネーターの公式動画です)。
(※Yコンビネーターの公式サイト内のページに、この動画の書き起こし(英語)が掲載されています。)
(※下の動画は、英語の動画ですが、日本語字幕を表示させることができます。
※スマホのYouTubeアプリの場合は、映像の上をタップして、右上の歯車のアイコンを押してから、「字幕」→「自動翻訳」→「日本語」を選択すると、日本語字幕が表示されます。
※パソコンの場合は、映像の右下にある「字幕」アイコンを押してから、歯車のアイコン(「設定」)を押して、「字幕」→「自動翻訳」→「日本語」を選択すると、日本語字幕が表示されます。)
ここからは、この上の動画でサム・アルトマンが語っている「起業で成功する12の秘訣」の内容を紹介していきます。(枠内の内容は、動画のなかで語られていることを意訳・要約したものです。)
知り合いに話したくなるほど良い商品をつくる
0:08~
A PRODUCT SO GOOD PEOPLE TELL FRIENDS
(知り合いに話したくなるほど良い商品をつくる)
もっとも重要なことは、「お客さんが、知り合いにその商品のことを話したくなるぐらい良い商品をつくる」ということです。
これが、成功の秘訣です。
これは、とても難しいことですが、これこそがやるべきことなのです。
これができれば、「起業家としてやるべきことの80%は完了した」と言ってもいいぐらいです。
あなたも、「友だちから、『これ、すごく便利だよ!』という話を聞いたことがきっかけ
で、それを使い始めた」という経験をされたことがあるのではないでしょうか?
(たとえば、Googleや、Facebookなどなど。)
人は、とても気に入っているものがあると、親しい人にその話をしたくなるものです。
ここでサム・アルトマンが言っていることを測定する方法として、NPS(ネットプロモータースコア)という指標があります。NPSというのは、かんたんに言えば、「その商品を知り合いにもオススメしたいと思いますか?」という質問に対する、お客さんの反応を指標化したものです。
NPSの概要については、下の動画をご参照ください。よく使われる指標である「満足度」よりも、「NPS」(知り合いにもオススメしたいか?)のほうが重要な指標になり得るということが、お分かりいただけるかと思います。
手短に説明できて、その良さがすぐにわかる商品
0:54~
EASY TO UNDERSTAND
(手短に説明できて、その良さがすぐにわかる商品)
良い商品とは、手短に説明できて、その良さがすぐにわかる商品です。
もし、商品内容を説明するのがむずかしいのであれば、商品のコンセプトが不明確なのかもしれません。
また、商品内容を説明してもその良さが伝わらないようであれば、需要が無いのかもしれません。
ここでサム・アルトマンが言っている、「手短に説明できて、その良さがすぐにわかる」という部分は、コピーライティングや広告の分野で言うところの、「ヘッドライン」(大見出しの言葉)の考え方と同じです。「ヘッドライン」も、「短い言葉で、心をつかむ」ためのものです。
ちなみに、ハリウッド映画の業界にも、「映画のヘッドライン」とでも言うべき、「ログライン」という言葉があります。「ログライン」も、「一目で心をつかむ」ための言葉です。
サム・アルトマンが言っているような、「商品内容を手短に説明できて、その良さがすぐにわかってもらえるような商品説明」をするためには、商品自体もさることながら、「その商品をどのように説明するか」ということも重要になります。そのことについて考えるための参考として、「最高のログライン」(≒最高のヘッドライン)についての話を紹介します。次の話は、ハリウッドで多くの映画脚本を売って大成功した脚本家が書いた、『セーブ・ザ・キャットの法則』という本からの引用です。この脚本家は、スティーヴン・スピルバーグにも、200万ドル(約2億円)で脚本を売ったことがあるほどの、「販売のプロ」でもあります。
「どんな映画なの?」の質問に、もしも一行ですばやく、簡潔に、独創的に答えられたら、相手は必ず関心を持つ。しかも脚本を書き始める前にその一行が書ければ、脚本のストーリー自体もよくなってくるのである。
最高のログライン
私はこれまで数多くの脚本家と話をしてきたが、プロでも素人でも、脚本を売りたいと言ってきたときには、ストーリーを聞く前にまずこの質問をする。「一行で言うとどんな映画?」。不思議なことに、脚本家というのは脚本を書き終えた後でこれを考えることが多い。お気に入りのシーンにほれ込んだり、『2001年宇宙の旅』(68) のモチーフを取り入れるのに夢中になったり、ディテールにこだわりすぎたりして、単純だが肝心なことを忘れてしまう。つまり、どんな映画なのかひと言で説明できないのである。10分以内でストーリーの核心部を説明できないのだ。
いやあ、まずいよ、それは!
そうなると、私はもう話を聞きたくなくなる。
なぜなら、それは脚本家が本気で考え抜いていない証拠だからだ。優秀な脚本家だったら、映画に携わる関係者すべてを頭に入れて考えるのが当然だ。エージェント、プロデューサー、映画会社の重役、そして観客に至るまで、すべてを考慮に入れなきゃいけない。あらゆる所に自分で出向いて脚本を売るなんて、現実的には不可能な話だ。だったら自分がいない場所でも、赤の他人をワクワクさせて、脚本を読んでもらうにはどうしたらいいか? それが脚本家の最初にすべき仕事なのだ。脚本の内容を一行で簡潔に説明できないなら、ごめん、そういつまでも話は聞いていられない(私の関心はもう次の脚本へ移ってしまうだろう)。一行で読者の心をつかめないような脚本家のストーリーなんて、聞くまでもないからだ。
この一行は、ハリウッドでログライン(もしくはワンライン)と呼ばれている。ログラインの出来の良し悪しを判断するのは簡単だ。たとえば、実際に売れたログラインを読んだとき、「何で俺はこれを思いつかなかったんだろう!? うーん、やるなあ」と思うもの……これは良いログラインだ。
(『SAVE THE CATの法則 : 本当に売れる脚本術』24~26ページより)
上の話を見ていただければ、「最高のログライン」が「最高のヘッドライン」であることがお分かりいただけるとおもいます。
コピーライティングや広告における「ヘッドライン」については、デイヴィッド・オグルヴィが、次のようなことを語っています。(※デイヴィッド・オグルヴィは、「広告の父」と呼ばれる、伝説のコピーライターです)。ここでデイヴィッド・オグルヴィが語っていることは、サム・アルトマンが言っている「手短に説明できて、その良さがすぐにわかる」ということに通じるものがあります。
普通の新聞では、あなたのヘッドラインは350もの他のヘッドラインと競い合わなければならない。読者は広告のジャングルをものすごい勢いで駆け抜ける。へッドラインは言いたいことをピシッと短く的確に述べなければならない。
「何がなんだかわからない」ヘッドラインもある。商品が何かも、何をするものかも書かれていない。こういうヘッドラインは平均より20パーセントも思い出してもらえる率が低い。
ヘッドラインこそが、他の何よりも広告の成否を決める(中略)
ヘッドラインの書き方についてもっと詳しく知りたいなら、ジョン・ケープルズの『ザ・コピーライティング』を一読することをお勧めする。
(『「売る」広告 [新訳]』74~76ページより)
「広告の父」にオススメされたので、さっそく、ジョン・ケープルズの『ザ・コピーライティング』の本を見てみましょう。この本で、ジョン・ケープルズは、次のように語っています。(※ジョン・ケープルズは、「20世紀の三大広告人」の一人で、いわゆる「ピアノコピー」として有名な広告コピーを書いた伝説のコピーライターです)。
こちらが提供するものを相手にしっかり記憶してもらうには、簡単な言葉で手短に伝える必要がある。広告を見聞きしているターゲットは急いでいる途中かもしれない。ページをめくりながらうとうとしているかもしれないし、テレビのチャンネルを次々と変えている最中かもしれない。ターゲットの気持ちは、こちらやこちらの商品からずっと離れたところにあるのだ。こじつけやわかりにくい言い方ではどうやっても相手に届かない。相手の急所、つまりハートか脳に命中させないとダメだ。相手の耳目を引きたいなら、わかりやすい表現、単刀直入な表現で、相手がほしいと思うものを伝えること。
(『ザ・コピーライティング : 心の琴線にふれる言葉の法則』68~69ページより)
これらが、ハリウッドの「最高のログライン(ヘッドライン)」の秘訣と、「広告の父」と「20世紀の三大広告人」の2人が語るヘッドラインの秘訣です。これらの秘訣を応用することで、サム・アルトマンが言うような「手短に説明できて、その良さがすぐにわかる」、すばらしい商品説明ができるでしょう。
急成長する分野を選ぶ
1:14~
EXPONENTIAL GROWTH IN MARKET
(急成長する分野を選ぶ)
急成長する分野でビジネスをしましょう。
(その時点での、市場規模が小さくてもかまいません。)
投資家が投資判断をするときに重要なことは、急成長する分野であるかどうかです。
(その時点での、市場規模の大小は重要ではありません。)
大成功した企業の多くは、小さな市場から始めて、すばやく成長した企業です。
もし、TAM(現時点で、市場規模がどれぐらい大きいか)のことだけを考えているとしたら、大きな間違いです。
(※1:49あたりで、サム・アルトマンが口にしている「TAM」(タム)というのは、「獲得可能な最大の市場規模」を意味する言葉です。かんたんに言えば、TAMは、そのビジネスの「伸びしろの大きさ」(成長する余地がどれぐらいあるか)をあらわす指標です。(TAMは、「トータル・アドレッサブル・マーケット」の頭文字です)。)
ここでサム・アルトマンが言っている、「市場規模が小さくても大丈夫」ということについては、ピーター・ティールも、同じようなことを言っています。
(※ピーター・ティールは、オンライン決済のPayPal(ペイパル)の創業者として有名です。また、PayPal出身の複数の起業家が、いろいろな分野で成功しています。それによって、PayPal出身者同士のネットワークは、俗に「ペイパル・マフィア」と呼ばれるほどに、強い影響力を持つようになっています。ピーター・ティールは、その「ペイパル・マフィア」のリーダー的な地位を占めています。そのほかにも、ピーター・ティールは、FacebookやLinkedIn(リンクトイン)に投資して大成功した投資家でもあります。イーロン・マスクの宇宙ロケット開発会社であるスペースXや、ChatGPTの開発元であるOpenAIにも投資しています。賛否両論ある人物でもありますが、その経験と実績から出てくる言葉からは、学べることも多いだろうと思います。)
ピーター・ティールは、彼自身の「起業論」について語っている本のなかで、次のようなことを言っています。(ちなみに、ビジネスにおける彼の信条は、「競争を避け、独占企業になる」ことです。)
どんなスタートアップもはじまりは小さい。どんな独占企業も市場の大部分を支配している。だから、どんなスタートアップも非常に小さな市場から始めるべきだ。失敗するなら、小さすぎて失敗する方がいい。理由は単純だ。大きな市場よりも小さな市場の方が支配しやすいからだ。最初の市場が大きすぎるかもしれないと感じたら、間違いなく大きいと思った方がいい。
(中略)
スタートアップが狙うべき理想の市場は、少数の特定ユーザーが集中していながら、ライバルがほとんどあるいはまったくいない市場だ。大きな市場はいずれも避けるべきだし、すでにライバルのいる大きな市場は最悪だ。起業家が1000億ドル市場の1パーセントを狙うと言う場合は常に赤信号だと思った方がいい。実際には、大きな市場は参入余地がないか、誰にでも参入できるため目標のシェアに達することがほとんど不可能かのどちらかだ。たとえ小さな足がかりを得たとしても、生き残るだけで精一杯になるだろう。壮絶な競争から利益が出ることはない。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』81~83ページより)
また、ピーター・ティールは、「競争は、戦争と同じで、不毛な結果しかもたらさない」というような意味のことを語っています(下記参照)。彼が上記の引用文で、「ライバルがひしめく大きな市場に参入することは、悪手だ」と言っている理由は、競争が激しいと、結局、不毛な結果しか得られないからです。
ビジネスマンはビジネスを戦争にたとえるのが好きでたまらないようだ。MBAの学生はクラウゼヴィッツや孫子の本をいつも抱えている。ビジネス用語は戦争の比喩だらけだ。「ヘッドハンター」を使って、セールス「部隊」を築き、「捕虜(キャプティブ)市場」を奪取して、「大儲けする(メイク・ア・キリング)」などと言う。だけど、戦争に似ているのは、ビジネスではなく競争の方だ。競争は必要だと言われ、勇敢なことだとされるけれど、結局は破壊を招く。
(中略)
競争は価値の証しではなく破壊的な力だとわかるだけでも、君はほとんどの人よりまともになれる。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』61、69ページより)
また、ピーター・ティールは、2010年頃に起こった「クリーンテクノロジー企業のバブル崩壊」の原因のひとつとして、「大きい市場に参入することは良いことだ」という間違った考えが広まっていたことを指摘して、次のように述べています。
21世紀の頭には、次に来るのはクリーンテクノロジーだと誰もが思っていた。(中略)
この努力は失敗に終わる。僕たちが手にしたのは健全な地球ではなく、巨大なクリーンテクノロジー・バブルだった(中略)2012年だけでも、40社を超える太陽光発電企業が経営に行き詰まるか破産を申請している。(中略)
ドーアが言うとおり、「インターネット市場は数十億ドル規模。エネルギー市場は数兆ドル規模」だ。でも、数兆ドルの市場が過酷で血なまぐさい競争の場であることを、彼は言い忘れたようだ。ドーアの言葉はたびたび繰り返された。2000年代、僕は何十社もの環境関連企業から数兆ドル規模の市場というバラ色のストーリーを聞かされた。大きな市場がいいことだとでも言うように。
代替エネルギー企業の経営陣は、エネルギー市場は新規参入者をすべて受け入れられるほど巨大だと言い張り、誰もが自分たちの会社に特別な優位性があると口を揃えていた。(中略)小さな市場で独自のソリューションを独占できなければ、過酷な競争からは抜け出せない。ミアソーレも例外でなく、この会社は投資家がつぎ込んだよりも何億ドルも低い金額で2013年に買収されることになった。
(中略)
クリーンテクノロジーの起業家は、救いようのないほど市場の捉え方を勘違いしている。自分たちの差別化を強調できるようにわざと市場範囲を狭め、そのくせ市場が巨大で儲かると言って価値を高く見せたがる。でもその市場セグメントが架空のものなら独占はできないし、市場が巨大なら競争が過酷で成功の可能性は低い。(後略)
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』202~203、209、211ページより)
本物の流行をとらえる
2:01~
REAL TRENDS VS. FAKE TRENDS
(本物の流行をとらえる)
本物の流行をとらえましょう(偽物の流行ではなく)。
本物の流行を見分けるポイントは、「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)が、夢中になっているかどうか」です。
一方、偽物の流行というのは、たとえば、VR(仮想現実)です。長い目で見れば、VRは、いつか本物の流行になるでしょう。ですが、すくなくとも、今は本物の流行とは言えません。なぜなら、実際にVRヘッドセットを持っている人はまだまだ少なく、たとえ持っていたとしても、日常的に使っている人は少ないからです。
ここでサム・アルトマンが口にしている「アーリー・アダプター」というのは、「早くから利用し始める、少数の熱心なユーザー」というような意味の言葉です。(アーリー・アダプターには、新しもの好きな人が多いです)。
「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)」の話に関連することとして、マルコム・グラッドウェルが述べていることを紹介します。彼は、『急に売れ始めるにはワケがある : ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』という本のなかで、クチコミの発生源となる人の3つの種類を紹介しています。その3種類とは、「媒介者(コネクター)」と、「通人(メイヴン)」と、「セールスマン」です。サム・アルトマンが言う「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)」は、マルコム・グラッドウェルが言う「通人(メイヴン)」に当たるだろうとおもいます。「通人(メイヴン)」というのは、「特定の分野についてくわしく知っていて、その情報を他の人にも教えてくれる人」のことです。いわゆる「情報通」のような人です。サム・アルトマンが、「その流行が本物かどうか」を判断するときに、「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)」に注目する理由は、その人たちが、「通人(メイヴン)」としてクチコミを広めることで、大きな流行につながっていくことを知っているからなのかもしれません。
ちなみに、「発生源となる人からクチコミが広がっていく仕組み」については、『新ネットワーク思考 : 世界のしくみを読み解く』という本でも解説されています。そこでは、上記のマルコム・グラッドウェルの話と同じようなことが、次のように語られています。下記の引用文中の、「ハブ」や「多数のリンクをもつノード」というのは、人々のつながりのネットワークの中心的な人物のことです。その典型の一つが、サム・アルトマンが言う「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)」や、マルコム・グラッドウェルが言う「通人(メイヴン)」だと言えるでしょう。
新商品やアイディアは、ハブ、すなわち消費者ネットワークの中で多数のリンクをもつノードに採用されることにより広がっていくのである。
(『新ネットワーク思考 : 世界のしくみを読み解く』306~307ページより)
また、サム・アルトマンが言う、「新しもの好きな人たち(アーリー・アダプター)」のような、「少数の熱心なユーザー」に対して営業することは、とても効果的な営業戦略になります。ピーター・ティールは、「まず、少数の熱心なユーザー(アーリー・アダプター)に利用してもらう」という営業戦略について、下記のような事例を挙げて説明しています。(※下記の事例は、オンライン・ファイル共有サービスのボックス(Box.com)の営業戦略についての話です)。
2008年、ボックスは、安全に、しかもアクセスしやすい形でクラウド上にデータを保存する企業向けサービスを開始した。でも、当時はまだ誰もその必要性を自覚していなかったクラウドコンピューティングはまだメジャーではなかったのだ。状況を変えるため、その夏に本書共著者のブレイクがボックスの三人目の営業マンとして採用された。ボックスの営業マンたちはまず、ファイル共有の問題に誰よりも頭を悩ませていた少数のユーザーを口説き、その後クライアント企業の中でユーザーを増やしていった。2009年、ブレイクはスタンフォード睡眠クリニックに少額のボックスアカウントを売り込んだ。クリニックの研究者が、実験データのログを保存するための簡単で安全な方法を探していたからだ。今ではスタンフォード大学が、大学ブランドのボックスアカウントを全学生と教員に配布し、スタンフォード病院もボックスに頼っている。もしはじめから学長に全学的なソリューションを売り込んでいたら、失敗していたはずだ。(中略)個人セールスがこの会社を数十億ドル企業にしたわけだ。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』178~179ページより)
また、ピーター・ティールは、かつて彼自身が、PayPalの営業戦略として採用していた戦略について、下記のように語っています。その営業戦略とは、「ニッチなセグメント(特定のニーズを持っている少数のユーザー)に集中して営業をかけて、そのユーザーを独占する」というものです。
ペイパルはランダムに顧客数を増やすつもりはなかった(中略)ニッチで送金頻度の高いセグメントを探す必要があった。それが、イーベイの「パワーセラー」、つまりネットオークションでの商品を生業にしている人たちだった。当時イーベイには2万人のパワーセラーがいた。大半は毎日複数のオークションを行ない、販売と同時に仕入れも行なっていた。ということは、コンスタントに送金が必要だ。しかもイーベイの決済システムは使い物にならなかったので、こうしたプロの販売人は僕たちのサービスを熱烈に歓迎し利用してくれた。このセグメントを独占したペイパルは、イーベイ全体の決済プラットフォームとなり、イーベイ内でもその外でも、後に追随できる会社はなかった。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』183~184ページより)
また、ピーター・ティールは、上記の「少数の熱心なユーザーに集中する」というPayPalの営業戦略について、下記のようなことも言っています。
バラバラの数百万ユーザーの関心を求めて争うよりも、僕たちのプロダクトを本当に必要とする数千人に訴求する方がずっと簡単だった。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』82ページより)
壮大なビジョンを描くことの重要性
ここからは、「壮大なビジョンを描く」ことの重要性についての話になります。
ちなみに、ここでサム・アルトマンが言う「壮大なビジョン」の例としては、サム・アルトマン自身の例が挙げられます。サム・アルトマンは、「人類の未来を切り拓く」という「壮大なビジョン」を実現するために、AI をはじめとした、いろいろなプロジェクトに取り組んだり、巨額の投資をしたりしています。サム・アルトマンが関わっているプロジェクトの代表的なものをいくつか挙げると、下記のようなプロジェクトがあります。
AGI(汎用AI、汎用人工知能):
OpenAI の GPT(ChatGPT)
(サム・アルトマンは、開発元である OpenAI に、CEOとして参画しています。)
核融合(クリーンで膨大なエネルギー源):
ヘリオン・エナジー(Helion Energy)
(サム・アルトマンは、投資家として、この会社に巨額の投資をしています。)
健康寿命の延伸(アンチエイジング):
レトロ・バイオサイエンシズ(Retro Biosciences)
(サム・アルトマンは、投資家として、この会社に巨額の投資をしています。)
人間とAIを見分けるためのIDと、ユニバーサル・ベーシックインカム:
World ID(ワールドID)、WorldCoin(ワールドコイン)、World App(ワールドアプ)
(サム・アルトマンは、開発元であるツールズ・フォー・ヒューマニティー(Tools For Humanity)に、共同創業者として参画しています。)
サム・アルトマンが手掛けるこれらのプロジェクトのなかには、AIと深い関係があるものも多いです。「AIとの関わり」という観点から見た場合の、それらのプロジェクトのおおまかな概要は、下記のとおりです。
- 核融合は、生成AIの利用者が急激に増えたために、電力需要が爆発的に増えていることに対応するためのプロジェクトである、という側面があります。
- WorldCoin(ワールドコイン)は、「AIによって人間が仕事をする必要が無くなる時代」に対応するための、「社会保障」としてのユニバーサル・ベーシックインカムを実現するためのプロジェクトである、という側面があります。
- World ID(ワールドID)は、「AIを悪用したベーシックインカムの不正受給」を防ぐための、「人間とAIを見分けるためのID」である、という側面があります。(そのため、World ID は、WorldCoin と一体のテクノロジーだと言えます。)
このように、サム・アルトマンは、「AIの登場によって激変する人類の未来を切り拓く」という「壮大なビジョン」を実現するために、こうしたプロジェクトに取り組んでいます。
つまり、サム・アルトマン自身も、「壮大なビジョンを描く」ことを実践しているということです。(「壮大なビジョンを描くことの重要性」については、このあとのところで、くわしく紹介します。)
熱意を伝える
3:32~
EVANGELICAL FOUNDER
(熱意を伝える)
創業者は、熱意を伝える役割をする必要があります。
採用、販売、PR、資金調達など、熱意を伝える必要がある場面はたくさんあります。
「自分たちは、何を成し遂げようとしているのか」ということを、創業者が積極的に伝えていく必要があります。それ無しで成功することはむずかしいです。
サム・アルトマンが語る「スタートアップの成功の秘訣」を体現している企業は、日本のスタートアップ企業のなかにもあります。その例をあげるとすれば、たとえば、出雲充さんが代表を務める株式会社ユーグレナが、その例のひとつとして挙げられるのではないかとおもいます。
出雲さんは、学生時代に世界最貧国と呼ばれたバングラデシュの栄養失調の問題を目の当たりにし、それを解決するために株式会社ユーグレナを立ち上げました。この会社は、栄養が豊富な「微細藻類のミドリムシ」(学名:ユーグレナ)を培養して、食品や、バイオ燃料などを生産している会社です。
上記の「熱意を伝える」ということについては、下の動画で、出雲さんの想いが語られています。下の動画の 7:00あたりで、「創業当初、2年間で500社に営業をかけて、すべて断られてしまい、501社目で初めて営業に成功した」、という話が語られています。下の動画の 8:48あたりでは、「500社に断られてしまうという、先の見えない状況のなかでも、あきらめずに営業を続けることができたのは、恩師であるムハマド・ユヌスさんからもらった言葉があったからだった」という話が語られています。(ムハマド・ユヌスさんは、バングラデシュ出身で、グラミン銀行の創始者であり、ノーベル平和賞の受賞者としても有名です)。「バングラデシュの栄養失調の問題を解決したい」という原点から始まり、ムハマド・ユヌスさんの教えを受け、今もより良い社会を実現するために歩み続けている出雲さんが語る言葉には、サム・アルトマンが言う、「自分たちは、何を成し遂げようとしているのか」ということが、明確にあらわれています。
この他にも、起業家・投資家である孫泰蔵さんは、著書のなかで、物語の登場人物の言葉として、次のようなことを語っています。(孫泰蔵さんは、ソフトバンクグループの創業者である孫正義さんの実弟でもあります)。下記の孫泰蔵さんの言葉も、サム・アルトマンが言う「熱意を伝える」ことに通じるものがあります。
世界を正しく認識したうえで、正しく語り、行動することができる人間こそ、社会の混乱に終止符を打ち、新たな社会を創造しうる実行者たりうる。世の中から悲しい争いをなくすためには、あるべき世界を伝えることによって人間を人間らしくする以外に道はない。
(『冒険の書 : AI時代のアンラーニング』26ページより)
壮大なビジョンを描く
4:05~
AMBITIOUS VISION
(壮大なビジョンを描く)
壮大なビジョンを描きましょう。
それによって、人々の関心を惹くことができ、協力者を増やすことができます。
さきほど、サム・アルトマン自身の「壮大なビジョン」の例を紹介しました。その他の「壮大なビジョン」の例としては、サム・アルトマンと同様に、「人類の未来を切り拓く」ことを目指している、イーロン・マスクのビジョンが挙げられるでしょう。
イーロン・マスクが経営する、テスラの電気自動車や汎用人型ロボットも、スペースXの宇宙ロケットも、すべてはイーロン・マスクの「人類の未来を切り拓く」という「壮大なビジョン」を実現するための布石だと言えます。テスラが、マグニフィセント・セブンの一角に入るまでに急成長することができたのも、こうした「壮大なビジョン」の求心力によるところが大きいと言えるでしょう。
(※マグニフィセント・セブンとは、世界規模で巨大な影響力をもつ、7社のビッグテック(超大型ハイテク企業)の総称です。GAFAM(ガーファム)と呼ばれる5社(Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook(メタ・プラットフォームズ)、Apple(アップル)、Microsoft(マイクロソフト))に、Tesla(テスラ)と、NVIDIA(エヌビディア)を加えた、7つの会社が、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれています。ちなみに、この言葉は、黒澤明監督の映画「七人の侍」をもとにして作られた、アメリカ映画「荒野の七人」の原題である「ザ・マグニフィセント・セブン」から採用されたものです。)
イーロン・マスクが、テスラの使命である「世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速させる」ということについて語っている映像は、下の動画の「2:35~3:08」のところで見ることができます。
サム・アルトマンが言っている、「壮大なビジョンを提示することで、人々の関心を惹くことができ、協力者を増やすことができる」ということについては、下の動画の 30:01あたりで語られています。そこでは、「社会を変える」ことを目指しているテスラの「壮大なビジョン」が、多くの高校生たちから支持され、応援されている、という話が紹介されています。
日本のスタートアップ企業にも、「壮大なビジョン」を掲げている企業があります。その例のひとつとして、下の動画では、さきほど紹介した株式会社ユーグレナの出雲充さんが思い描いている「壮大なビジョン」の一端が語られています。下の動画の 11:44~13:20 あたりのところで、出雲さんは、「100兆円規模の会社になる」という中間目標と、それが達成可能である根拠や、そこに至るまでの道すじ(ロードマップ)を示しています。その根拠のひとつとして、下の動画の 18:05~21:15 のところで、出雲さんは、「バイオ業界とIT業界は、指数関数的に成長するので、信じられないような勢いで成長することがあり得る」という話をされています。
この出雲さんの話にもあらわれているように、「壮大なビジョン」は、しっかりとした根拠にもとづいた、達成までの道すじ(ロードマップ)があって初めて意味のあるものになります。出雲さんがおっしゃっているように、「根拠も無く、気合と根性だけでどうにかしようとするのではダメだ」ということです。
また、出雲さんは、株式会社ユーグレナの「哲学」として、「持続可能性」を最重要視する「サステナビリティ・ファースト」という考えを打ち出した時に、社内外の人々が支持してくださったという話をされています。この話も、サム・アルトマンが言う、「壮大なビジョンを掲げることで、人々から支持してもらえる」ということの、ひとつの例です。
また、ピーター・ティールは、「あなたの会社の独自の使命を語ることで、優秀な人材を惹きつけることができる」というような意味のことを語っています(下記参照)。
20人目の社員が君の会社に入りたいと思う理由はなんだろう?
才能ある人材なら、君の会社で働かなくてもいい。引く手あまただからだ。だからこの質問をさらに具体的に問い直してみよう——グーグルでもほかの会社でもより高給でより高い地位につける人が、20番目のエンジニアとして君の会社を選ぶ理由はなんだろう?
ダメな答えをまず挙げよう。「他社よりストックオプションの価値が高くなる」「優秀な人たちと仕事ができる」「差し迫った社会問題の解決に役立つことができる」。株式価値、優秀な仲間、差し迫った問題の何が悪いのか?何も悪くない。ただ、ほかの会社でも同じことが言えるので、君の会社が特別ということにはならない。他社と変わらない一般的な売り文句では、君の会社を選んではもらえない。
いい答えは君の会社に固有のもので、この本の中にはない。だけど、いい答えは大まかに二つに分類される。ひとつは君の会社の使命について、もうひとつはチームについてだ。君の使命に説得力があれば必要な人材を惹きつけられる。その使命の漠然とした重要性ではなく、ほかの会社ができない大切なことを君の会社がなぜできるのかを説明しなければならない。それこそが、君の会社だけが持つ固有の重要性だ。(中略)
何よりも、待遇競争をしてはいけない。(中略)他社にできないことを約束すべきだ。それは、素晴らしい仲間と独白の問題に取り組める、替えのきかない仕事のチャンスだ。おそらく報酬や福利厚生では2014年のグーグルに勝つことはできないけれど、使命とチームについての正しい答えがあれば、1999年のグーグルになることができる。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』163~165ページより)
また、テクノロジーとビジネスの専門家である安宅和人さんは、下の動画で、下記のようなことを語っています(5:36 のあたり)(下記は意訳です)。この動画は、2019年に、慶応大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)に設立された「安宅研究室」が目指すことについて、安宅和人さんご本人が語っている動画です。
(※安宅和人さんのプロフィール:慶応大学教授、Zホールディングス シニアストラテジスト、データサイエンティスト協会理事、イェール大学で脳神経科学の博士号取得、元マッキンゼーの経営コンサルタント。)
イーロン・マスクのテスラや、出雲充さんのユーグレナは、ここで安宅さんが言っている、「未来への期待感」を感じさせる企業だからこそ、たくさんの人々に支持されているのでしょう。
5:36
スタートアップにとっては、市場占有率(マーケットシェア)なんかよりも、
「世の中を変えている」という「未来への期待感」を感じさせることが、
圧倒的に重要な時代が来ている。これが、非常に重要。
6:12
夢を描く力と、カタチにする力が、強烈に大事です。
6:53
課題や夢を描き、それを技術で解き、デザインして商品化する。
これが、未来をつくる方程式。
これを実現するための、「夢を描いてカタチにする力」が、圧倒的に重要です。
(動画内のスライド)
「富を生むメカニズムが質的に変容」
Old Game | New Game |
・市場でのプレゼンス・寡占 | ・未来への期待感、寄与 |
・既存の枠組みの中での規模と効率の追求 | ・既存の枠組みを越え、ICT、技術革新をテコに世の中をアップデート |
・既存のルールでのサバイバル | ・ジャングルを切り開きサバイバル |
実現不可能に思えるビジョンのほうが成功しやすい
4:22~
HARD STARTUP VS. EASY STARTUP
(実現不可能に思えるビジョンのほうが成功しやすい)
逆説的に聞こえるかもしれませんが、実現不可能に思えるような壮大なビジョンを掲げている企業のほうが、成功する確率が高いです。
逆に、実現する可能性が高い目標だけを掲げている企業は、成功する確率が低くなります。
その理由のひとつとして、「起業する人が増えて、優秀な人材の獲得競争が激化している」という状況があります。
そのような状況では、「なぜこの会社で働く必要があるのか?」「なぜこの仕事が世界にとって重要なのか?」という疑問に答える必要があります。
それらの疑問に対する答えとなるのが、ビジョンです。
「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」であるほど、それが実現したときに社会に与える影響は大きくなります。
そのため、「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」を掲げている企業には、優秀な人が集まってきます。
このように、たくさんの人が「協力したい」「参加したい」と思うようなビジョンを掲げましょう。
この、「簡単なスタートアップよりも、困難なスタートアップの方が成功しやすい」という考え方については、サム・アルトマン自身のブログに、そのことについての考えを語っている記事があります。こちらのリンクで、その記事の日本語訳の文章を読むことができます(Google翻訳を使用)。(原文はこちら)
ここでサム・アルトマンが言っていることが実感できる話が、下の動画で語られています。ここでは、下の動画の登壇者である、髙島宏平さんと、キャシー松井さんの言葉を紹介します。
髙島宏平さんは、「Oisix(オイシックス)」や、「らでぃっしゅぼーや」などを運営している、自然派食品宅配の最大手である、オイシックス・ラ・大地株式会社の社長です。また、髙島さんは、元マッキンゼーのコンサルタントでもあります。
キャシー松井さんは、日本初のESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンドである、MPower Partners Fund L.P. (Mパワー・パートナーズファンド L.P. )のゼネラル・パートナーです。(※ESG:環境、社会、企業統治)。また、松井さんは、ゴールドマン・サックスの元日本副会長でもあります。
(下記の文章は、下の動画の要点を抜粋して意訳したものです。)
36:04~36:56
(髙島宏平さん:オイシックス・ラ・大地 社長)
会社の若いエンジニアやデザイナーさんたちに、「なぜ、ここで働いているの?」と聞くと、「地球のため」「人類のため」と言う。
地球や社会にとってマイナスになる会社には、優秀な人材が集まらなくなる。「地球や社会にとってプラスになる会社で働きたい」という人が増えている。日本でも、そうしたことを重視しない会社は、若い人を採用できなくなる。
37:00~39:12
(キャシー松井さん:MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー)
優秀な人材に来てもらい、長く働いてもらうためには、「なんのために、毎日職場に来て働くのか?」「どのように社会に貢献しているのか?」という質問に答える必要がある。
(そうでなければ、若い人は集まらないし、離職率も高くなってしまう。)
BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動や、MeToo(ミートゥー)運動などの、社会運動や社会問題に対して、自社がどのような対応をするのかを示す必要がある。そうしないと、若い人たちの反感を買ってしまい、退職してしまう人が増えたり、不買運動が起こってしまったりする。
スタートアップ企業は人材がすべてなので、そうしたことを重視する必要がある。
上記の話に関連する話として、ユーグレナの出雲充さんは、「サステナビリティ・ファーストじゃないと、優秀な人材が来てくれなくなる」と語っています(下の動画の 34:24~36:07 参照)。ここにも、「壮大なビジョン」を掲げることの重要性と必要性があらわれていると思います。
来たるべき未来を、しっかり見据える
5:35~
CONFIDENT AND DEFINITE VIEW OF FUTURE
( 来たるべき未来を、しっかり見据える)
これからの時代の変化を予想して、それに基づいて、どう行動するかを明確に示しましょう。
それに対して、疑念を投げかけられても、自分の予想を信じて行動する勇気を持ちましょう。
ただ、予想は外れるものなので、思っていたようにならなかったときには、それに固執せずに方針を変える柔軟性も大切です。
ここでサム・アルトマンが言っている「未例を見据える」ことについては、ピーター・ティールも同様のことを言っています(下記参照)。
まずはじめに、こう自問しなければならない——今から10年から20年先に、世界はどうなっていて、自分のビジネスはその世界にどう適応しているだろうか?
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』215~216ページより)
ユーグレナの出雲充さんは、『サステナブルビジネス : 「持続可能性」で判断し、行動する会社へ』という本で、未来について、下記のようなことを語っています。(※ミレニアル世代:2000年代に成年期を迎えた世代。デジタルネイティブの最初の世代)。
私は、ミレニアル世代が世界の生産年齢人口の過半数を占める2025年までに、これまでの資本主義のビジネスから、ソーシャルビジネスやサステナブルビジネスが主流となる持続可能な社会へと世界は大きく変化すると考えています。
(中略)
2025年にミレニアル世代が過半数になれば、政治が変わり、消費者の商品やサービスを選ぶ基準が変わります。それに対応するため企業の商品づくりやサービス内容も変わります。働き方も変わり、生活の仕方も大きく変わるでしょう。
すべてのこと、あらゆることを、「それは持続可能か(サステナブルか)」というモノサシで判断する時代が到来するのです。
(『サステナブルビジネス : 「持続可能性」で判断し、行動する会社へ』「6章 ミレニアル世代の価値観が世界を変える」より)
出雲さんは、上記と同様のことを、下の動画でも語っています。また、下の動画では、CFO(最高未来責任者)という、独創的な取り組みについても語られています。(下記の文章は、下の動画の要点を抜粋して意訳したものです。)
32:01~35:35
(出雲充さん:株式会社ユーグレナ社長)
2025年に、パラダイムシフトが起こる。その年を境に、サステナビリティ(持続可能性)を重視しない企業は、優秀な人材を採用できなくなり、商品を買ってもらえなくなる。
その年に、生産年齢人口の半数がミレニアル世代になる。(※その年から、ミレニアル世代が、社会の主流派になる。)
ミレニアル世代は、ソーシャルネイティブ(社会的な価値を重視する)です。
なので、サステナビリティ(持続可能性)を重視しない企業は、社会の主流派であるミレニアル世代に相手にされなくなってしまう。
だからこそ、2025年になる前に、サステナビリティ(持続可能性)を重視する会社へと変化する必要がある。
35:40~36:58
(出雲充さん:株式会社ユーグレナ社長)
未来を正確に予測することには価値がない(※正確な未来予測は不可能であり、未来予測はハズレるから)。
未来を予測する代わりに、未来の世代の人から、意見をもらうようにした。
そのために、CFO(最高未来責任者、チーフ・フューチャー・オフィサー)という役職をつくった。
現在、15才の高校生に、CFOの役職に就いてもらっている。
(※彼女が、会社のナンバースリー。CFOの役職は、会社で上から3番目の地位にある)。
若い世代の彼女の目から見て、自社や、自社の商品・サービスが、若い人たちから支持されるものになっているかどうか、チェックしてもらっている。
ちなみに、上記で出雲さんがおっしゃっているミレニアル世代の話のような、人口動態の話については、ピーター・ドラッカーが、下記の引用文中で、重要なことを言っています。一言で言うと、「人口動態のデータから、未来を予測できる」ということです。「未来予測はできない」と言っている出雲さんが、2025年のことを予見できる背景には、ドラッカーが言うように、「年齢構成上の変化は、絶対確実だから」という理由があるのだろうと思います。
年齢構成上の変化は予測可能というだけではない。絶対確実である。というのも、これから50年後に65歳になる人々は、すでにこの世に生まれているからである。同様に、10年〜15年後に就労年齢に達する世代もすでに誕生している。
(ピーター・ドラッカー「人口動態で未来を読む」、『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2004年8月号』119ページより)
さきほど紹介した動画のなかで、出雲さんが「未来を正確に予測することには価値がない」とおっしゃっていました。それと同様のことを、科学的な視点から、科学者でもある安宅和人さんが語っておられます。安宅さんは、下の動画の 13:59 のあたりで、下記のようなことを語っています。
僕は毎日、国の委員会などに呼ばれて、未来について聞かれるんですが、常に言っていることは、これです(※以下の内容)。
「人工生命」という研究分野があって、コンピューター上で生命をシミュレーションできるんですね。
そこでの進化のシミュレーションから分かったことは、
「同じ初期値で、同じ条件下であっても、同じ未来は絶対に起きない」
ってことなんです。
毎回、違うことが起こるんですね。
「未来を予測できる」というのは間違っていて、科学的な結論ではないんです。
本当は、未来というのは、我々が目指すことや、作ることに意味がある。
未来を予測することには、本質的に意味がない。
投資家は「もし実現すれば大成功」に賭ける
6:11~
HUGE IF IT WORKS
(投資家は「もし実現すれば大成功」に賭ける)
スタートアップ企業に投資する投資家やベンチャーキャピタルは、「成功する確率は低いものの、もし成功すれば、ものすごい大成功になるような企業」に対して投資したいと考えています。
その意味でも、「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」を掲げることは重要です。
スタートアップ企業は、ベンチャーキャピタルからの投資を受けて、事業を展開します。そのベンチャーキャピタルの業界には、「千三つ」(せんみつ)という言葉があります。ここで言う「千三つ」とは、「1000社に投資して、成功するのは3社」という意味です。つまり、「成功する確率は、すごく低い」という意味です。
それでも、投資先の中のほんの数社が大成功すれば、すべての投資先への投資金額の合計を上回る収益が得られます。「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」を掲げている企業は、成功する確率は低いものの、もし成功すれば、ものすごい大成功になる可能性があります。サム・アルトマンが言っているように、「ベンチャーキャピタルが、壮大なビジョンを掲げている企業に投資したがる」のは、これが理由です。
上記の話に関連する話として、ピーター・ティールは、ベンチャーキャピタルの内情について、下記のようなことを語っています。
ベンチャーキャピタルは、アーリーステージへの投資によって指数関数的成長から利益を得ることを目論み、ほんの数社の価値が、ほかのすべての企業の価値をはるかに超える。
(中略)
ベンチャーキャピタルが支援するスタートアップのほとんどは上場することも売却されることもない。大半は失敗し、しかも創業からまもなく消えていく。多くの案件が初期に失敗するため、ベンチャーファンドが当初損失を出すのは避けられない。でも、数年のうちに優良投資先が指数関数的成長の段階に達して規模拡大を始め、損失を補ってあまりあるまでにファンド価値が上昇することを、ベンチャーキャピタリストは期待している。
(中略)
ベンチャーキャピタルにとっての何よりも大きな隠れた真実は、ファンド中最も成功した投資案件のリターンが、その他すべての案件の合計リターンに匹敵するか、それを超えることだ。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』116~117、118、120ページより)
起業家・投資家である孫泰蔵さんは、下の動画の「55:30~58:42」のところで、次のようなことを語っています。(下記の文章は、下の動画からの抜粋とその意訳です)。下記の孫泰蔵さんの言葉も、サム・アルトマンが言う「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」をかかげることに通じるものがあります。
55:30~58:42
世界を変えるような起業家は、「大きな問い」を立てて、「できそうにないけど、もしこれが実現したら、最高に素晴らしいよね」ということを信じて行動している。
チームに必要な人の特徴
ここからは、「チームに必要な人の特徴」についての話になります。
楽観的な人の重要性
7:21~
OPTIMISTS!
(楽観的な人の重要性)
チームには、楽観的な人が必要です。
世の中の多くの人は、「できない理由」や「失敗する可能性」に目を向けがちです。
そのような否定的な意見を真に受けて、行動することをやめてしまうのではなく、「かならず解決できるはずだ」と信じて、行動し続けることができる人が必要です。
アイデアを生み出す人
7:48~
IDEA GENERATORS
(アイデアを生み出す人)
チームには、継続的に新しいアイデアを生み出してくれる人が必要です。
(その人のアイデアのすべてが、すばらしいものである必要はありません。)
「かならず解決してみせます」
8:18~
“WE’LL FIGURE IT OUT”
(「かならず解決してみせます」)
「かならず解決してみせます」「なんとしてでも解決してみせます」という意志をもった人が、チームには必要です。
スタートアップ企業では、うまくいかないことや、危機的状況になることがよくあります。
たとえそのような状況であっても、「かならず解決してみせる」という意志をもった人が必要です。
「私がやります、まかせください」
8:51~
“I’VE GOT IT”
(「私がやります、まかせください」)
自分から積極的に手を挙げて、「私がやります」「まかせてください」と言ってくれる人が、チームには必要です。
「それは私の仕事じゃありません。誰か他の人がやればいいんじゃないですか?」と言って、問題が起こっていることを見て見ぬふりするのではなく、自発的に行動を起こす人が必要です。
「とにかく、やってみよう」
9:10~
ACTION BIAS
(「とにかく、やってみよう」)
スタートアップ企業は、動きが速いので、考えるための時間が足りなかったり、参考になる情報が無かったりします。ですが、それでも動く必要があります。
そのような、データが少なくて、不確実な状況でも、行動できる人が、チームには必要です。
もし、行動を起こした結果、うまくいかなかったときは、すばやく対応して、他の方法を試します。
上記のサム・アルトマンの話と同様のことを、ユーグレナの出雲充さんもおっしゃっています(下記参照)。
答えが出ない、正解がわからないとき、私たちはそうした問題に対して、どのように向き合えばよいのでしょうか。
(中略)
どう変化するかは誰にもわかりません。
どんなに考えても、シミュレーションしても、臨界点の先に何があるのかは、予想できません。リニアではない、先のわからない変化なので予測できないことに頭を使ったり、不安になったりしても、あまり意味がありません。
臨界点を超えた後どうなるのかについて考えたり、分析したり、予測したりするのではなく、自らの行動によって未来を創り出すことに注力したほうがいい。最初に行動した人が未来を創り出すのですから。
(『サステナブルビジネス : 「持続可能性」で判断し、行動する会社へ』「6章 ミレニアル世代の価値観が世界を変える」より)
経験や知識が無いことの利点
9:37~
THE BLESSING OF INEXPERIENCE
(経験や知識が無いことの利点)
チームメンバーのなかに、経験や知識が無い人がいることにも、利点があります。
スタートアップ企業は、ときに、不可能とされていたことを実現することがあります。
それができる理由のひとつは、経験や知識が無かったからです。
ある分野で経験や知識がある人には、「不可能だ。できるはずがない」という思い込みがあります。
ですが、経験や知識がない人には、そのような先入観が無いため、ためらいなく行動を起こすことができ、その結果として、それを成し遂げてしまうことが起こり得ます。
起業家・投資家である孫泰蔵さんは、下の動画の「34:11~35:44」のところで、次のようなことを語っています。(下記の文章は、下の動画からの抜粋とその意訳です)。下記の孫泰蔵さんの言葉も、サム・アルトマンが言う「経験や知識が無いことの利点」に通じるものがあります。
34:11~35:44
イノベーションは、常に、専門家ではない素人から生まれています。
勢いを落とさず進み続ける
10:20~
MOMENTUM
(勢いを落とさず進み続ける)
創業者がやるべき重要なことのひとつは、チームの勢いを止めないことです。
チームに勢いがあると、メンバーは自分が想像している以上の成果を出すことができます。
ただし、一度、勢いを失ってしまうと、元にもどすのは大変です。
ですので、勢いを落とさず進み続けましょう。
参考までに、スタートアップの「勢い」や「働きぶり」がどのようなものなのか、ということがわかる事例を、いくつか紹介します。極端過ぎると感じるところがあるかもしれませんが、ご参考までに。
まず、Yコンビネーターの創業者であるポール・グレアムの言葉を紹介します。(Yコンビネーターは、サム・アルトマンの古巣です)。ポール・グレアムは、「シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール」として知られる、Yコンビネーターの「スタートアップ・スクール」という起業家育成プログラムを通して、たくさんの起業家を育て、成功させてきたことで有名です。また彼自身も、Yコンビネーターを創業する前に、別の会社を起業して大成功を収めた起業家の一人です。次の彼の言葉は、彼自身の起業の経験から出た言葉です。
例えば、どれくらい働きたいのかを自分で決めることはできない。だいたい2倍か3倍働いてその分給料を貰いたいな、というわけにはいかない。ベンチャーを立ち上げたら、競争相手があなたがどれだけ働かなくちゃならないかを決めることになるんだ。そしてどの会社も同じような結論へと向かう。つまり、可能な限り頑張るってことだ。
(『ハッカーと画家 : コンピュータ時代の創造者たち』108ページより)
次は、Yコンビネーターの「スタートアップ・スクール」の参加者の事例です。(スタートアップ企業の採用面接での、採用候補者とのやりとりの一場面です)。
大学院を終えたばかりの彼はこう尋ねた。
「拘束時間はどのくらいですか?」
不思議な質問だった。なぜなら、スタートアップライフにおいて、捧げる時間の長さは1種類だけ、24時間だからだ。「われわれが求めているのはフルタイム、文字通りの意味です」、キャンベルは一瞬笑って中断し、「たくさんの時間です」と言った。笑いで場を和ませようとしたが、キャンベルは真剣だった。「私の予想では、特にスタート直後、慣れるまでの間は、ほとんどノンストップになるでしょう。スタートアップだから当たり前ですが。つまり、自分で終わらせられなければ、誰もやる人はいないということです。
(『Yコンビネーター : シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』第10章内の「24時間戦えますか?」の節より)
次は、ふたたび「ポール・グレアムのスタートアップ時代」の話です。(※ヴィアウェブ(Viaweb)というのは、ポール・グレアムたちが作った、「誰でもかんたんにオンラインストアが作れる」ウェブアプリケーションです。)
グレアムはスタートアップ創業者の生活がどんなものであるか、Yコンビネーターを始める前の1995年から1998年までの3年間の経験から知っている。グレアムの場合はさいわいハッピーエンドだった。彼は自分のスタートアップ「ヴィアウェブ」をヤフーに売り、二度とあくせく働かずにすむ程度の財産を得た。
(中略)
グレアムはスタートアップ時代を振り返ってこう告白する。
「残念ながら、あの時代、私はずっとゾンビーみたいだった。ヴィアウェブをやっているころは自分の生活というものはゼロだった。誰でも知っているような有名な映画の話が出て、私がそれを全然知らない、聞いたこともないとしたら、たぶんその映画は1995年から1998年の間に公開されたんだ。当時は私は火星に住んでいるも同然だった。人間の生活ではなかった。ほとんど24時間コンピュータの前に釘付けになっていて、眠るのもコンピュータの前だった」
(『Yコンビネーター : シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』第2章内の「ポール・グレアムのスタートアップ時代」の節より)
これらの事例のように、ここまでやるかどうかは別にしても、世の中には、これぐらい起業に人生を懸けている人たちがいるというのは、なにかしら刺激を受けるところがあるかもしれません。
比較優位を維持し続ける
11:06~
COMPETITIVE ADVANTAGE
(比較優位を維持し続ける)
比較優位性(独占状態)を、長期的に維持し続ける必要があります。
ネットワーク効果などを利用して、比較優位性を維持しましょう。
意外に、「比較優位性の維持」について考えていないスタートアップ企業は多いです。
ですが、成功している企業はどこも、かならず「比較優位性の維持」について考えています。
ポール・グレアムは、「比較優位性」に関連する話として、次のようなことを語っています。
ベンチャーキャピタリストはもちろんこのことを知っていて、それに対する用語まである。「参入障壁」だ。あなたが新しいアイディアを思いついてベンチャーキャピタルに投資をもちかけたとしたら、最初に尋ねられるのはそれを他の誰かが作るのはどれだけ難しいか、ということだ。言い換えれば、あなたと他の追跡者との間にどれだけ困難な領域が確保してあるか、だ。そして、あなたはその技術を他で作るのがどれだけ困難かという、説得力のある説明を用意しておかなければならない。でなければ、大会社はそのアイディアを見た途端に自分で同じものを作り、大会社のブランド名、資本、販売チャネルを使って、あなたの市場を一夜にして奪ってしまうだろう。
(『ハッカーと画家 : コンピュータ時代の創造者たち』107ページより)
ピーター・ティールは、「比較優位性」に関連する話として、次のようなことを語っています。さきほどお話したように、ピーター・ティールの信条は、「競争を避け、独占企業になる」ことです。次の言葉からは、「独占」についての彼の強い信念が感じられるとともに、ビジネスにおいて「独占」が絶対に必要なものである理由がよくわかるかと思います。
アメリカ人は競争を崇拝し、競争のおかげで社会主義国と違って自分たちは配給の列に並ばずにすむのだと思っている。でも実際には、資本主義と競争は対極にある。資本主義は資本の蓄積を前提に成り立つのに、完全競争下ではすべての収益が消滅する。だから起業家ならこう肝に銘じるべきだ。永続的な価値を創造してそれを取り込むためには、差別化のないコモディティ・ビジネスを行なってはならない。
(中略)
競争の現実に目を向けず、ささいな差別化に力を注ぐだけでは、生き残りは難しい。
(中略)
独占企業は金儲け以外のことを考える余裕がある。非独占企業にその余裕はない。完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない。生き残りを賭けた厳しい闘いからの脱却を可能にするものは、ただひとつ——独占的利益だ。
(中略)
独占は進歩の原動力となる。なぜなら、何年間、あるいは何十年間にわたる独占を約束されることが、イノベーションヘの強力なインセンティブとなるからだ.その上、独占企業はイノベーションを起こし続けることができる。彼らには長期計画を立てる余裕と、競争に追われる企業には想像もできないほど野心的な研究開発を支える資金があるからだ。
(中略)
他社のできないことをどれだけできるかで、成功の度合いが決まる。つまり、独占は異変でも例外でもない。独占は、すべての成功企業の条件なのだ。
(中略)幸福な企業はみな違っている。それぞれが独自の問題を解決することで、独占を勝ち取っている。不幸な企業はみな同じだ。彼らは競争から抜け出せずにいる。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』44~57ページより)
サム・アルトマンの言葉にあった「ネットワーク効果」の概要については、下の動画をご参照ください。
また、「ネットワーク効果」については、ピーター・ティールが、次のように説明しています。ここでも、さきほどの話と同じように、「小さな市場から始めることの重要性」が語られています。
利用者の数が増えるにつれ、より利便性が高まるのがネットワーク効果だ。たとえば、友だちみんながフェイスブックを使っていれば、自分もフェイスブックを使うのが理にかなっている。誰も使わないソーシャル・ネットワークを選ぶのは変人だけだ。
ネットワーク効果は強い影響力を持ちうるけれど、そのネットワークがまだ小規模な時の初期ユーザーにとって価値あるものでない限り、効果は広がらない。たとえば、一九六〇年にザナドゥという風変わりな会社が、すべてのコンピュータをつなぐ双方向のコミュニケーションネットワークの開発に乗り出した。ある種のワールドワイドウェブの初期バージョンとも言えるようなものだ。三〇年間虚しい努力をつづけたザナドゥが事業を畳んだのは、ちょうどウェブが普及し始めた時だった。ユーザー規模が大きければおそらく成功していたはずだけれど、逆に規模がなければ決して成功しないビジネスだったとも言える。すべてのコンピュータが同時にネットワークに加入することが必要で、それはあり得なかった。
矛盾するようだけれど、ネットワーク効果を狙う企業は、かならず小さな市場から始めなければならない。フェイスブックはハーバードの学生だけの間で始まった。マーク・ザッカーバーグの最初の目的は同級生全員を加入させることで、全世界の人口を狙ったわけではなかった。ネットワーク事業を成功させた人たちのほとんどがMBAタイプではないのはそのせいだ——初期の市場が小さすぎて、そこに事業チャンスがあるようには見えないのだから。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』77~78ページより)
ネットワーク効果を活用した実例のひとつとして、ZocDoc(ゾックドック)という、病院探しと予約ができるサービスの事例があります。この事例について、ピーター・ティールは、下記のように語っています。
プロダクト自身がある種の販売を兼ねるケースもある。ファウンダーズ・ファンドが投資するゾックドックはオンラインでの病院探しと予約を助ける会社だ。このネットワークに加入する医師から、毎月数百ドルを受け取っている。一件当たりの平均売上額は数千ドルで、セールスには多くの営業マンが必要になる——社内には営業マンの採用を専門に行なうチームがあるほどだ。医師に加入してもらうことは、一度の売り上げにつながるだけではない。多くの医師がネットワークに加入することで、患者にとってこのプロダクト自体の価値が上がる(そして患者数が増えれば、医師にとっての魅力も増す)。すでに500万を超えるユーザーが毎月このサービスを利用している。医師の過半数が加入するまでにネットワークの規模を拡大できれば、これがアメリカの医療産業にとっての基本的なインフラとなるだろう。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』179~180ページより)
また、ピーター・ティールは、ネットワーク効果を活用した実例として、Facebook と PayPal の事例を挙げています(下記参照)。下記に書かれているように、PayPal は、キャッシュバック・キャンペーンや、アフィリエイト・マーケティング(友だち紹介)を活用することで、ユーザー数を大幅に増やすことに成功しました。
プロダクト自体に友人を呼びこみたくなるような機能がある場合、それはバイラルする。フェイスブックとペイパルがあっという間に広がったのはそのおかげだ——友だちと何かをシェアしたり支払いをしたりするたびに、より多くの人が自然にそのネットワークに招き入れられる。安いだけでなく、早いやり方だ。新規ユーザーがふたり以上のユーザーを呼び込めば、指数関数的な成長の連鎖反応が起きる。(中略)
ペイパルの最初のユーザー数は24人で、全員がペイパルで働いていた。バナー広告による顧客獲得はコストがかかりすぎるとわかった。そこで、僕たちは加入者に直接キャッシュバックを行ない、さらに友だち紹介に現金を支払うことで、桁外れの成長を遂げた。この戦略の顧客当たりの獲得コストは20ドルだったけれど、顧客数は毎日7パーセントずつ増加し、10日おきに顧客数は倍増した。4、5か月後には数万人のユーザーを獲得し、少額の送金手数料を課金することで偉大な企業へと発展するための足場を確保した。手数料収入は最終的に顧客獲得コストを大きく上回った。
(『ゼロ・トゥ・ワン : 君はゼロから何を生み出せるか』182~183ページより)
利益を出すことをちゃんと考える
11:46~
SENSIBLE BUSINESS MODEL
(利益を出すことをちゃんと考える)
また、利益を出すことを考えていないスタートアップ企業も、意外に多いです。
ですので、利益を出すことをちゃんと考えましょう。
お客さんを増やすことをちゃんと考える
12:05~
DISTRIBUTION STRATEGY
(お客さんを増やすことをちゃんと考える)
また、「どうやってユーザーを増やすのか?」ということを考えていないスタートアップ企業も、意外に多いです。
ですので、お客さんを増やすことをちゃんと考えましょう。
ポール・グレアムは、ユーザーの重要性について、次のように語っています。
一番大事なところは、結局ユーザに行き着く。ベンチャー企業を買収しようなんて会社は、たくさんの調査をしてターゲットの技術がどれくらい価値があるかを決めようとする、と思うかもしれない。全然そんなことはないんだ。彼らが聞くのは、あなたが持っているユーザ数だ。
実質的に、買収しようとしている企業は、顧客こそが一番の技術を知っていると仮定していることになる。これはそれほどおかしな考えではない。ユーザはあなたが富を創り出したことの唯一の現実的な証明だからだ。富は人々が欲しがるものであり、人々があなたのソフトウェアを使っていないのなら、それはマーケティングが下手なだけじゃないかもしれない。それは、あなたが作ったものは人々が欲しがるものではなかったということなのかもしれないんだ。
ベンチャーキャピタルは、注意すべき危険信号のリストを持っている。トップ近くにあるのは、ユーザを幸せにすることより面白い技術的問題を解くことのみに夢中な、技術馬鹿によって会社が経営されている場合だ。ベンチャー企業は単に問題を解くだけじゃいけない。ユーザが解いてほしいと思っている問題を解くべきなんだ。
したがって、買収しようとする企業と同じように、あなたもユーザを指標とするべきだと思う。ベンチャー企業を最適化の問題と考えてみよう。その性能がユーザ数で測られるものとするんだ。ソフトウェアを最適化した経験のある人なら誰もが知っているように、鍵は測定にある。ソフトウェアのどの部分が遅くて、どこをどうしたら速くなるかを推測に頼っているときは、その推測はまず確実に間違っている。
ユーザ数は完全なテストではないにしても、かなり近いものにはなるだろう。買収しようとする企業はそれを気にしている。収益もユーザ数に依存している。ユーザ数が多ければライバルは心配する。記者は感心し、新しいユーザ候補も関心を持つだろう。確かにこれは、どの問題を解くのが重要なのかを頭から決めてかかるよりも良い指標だ。たとえあなたが技術的にどんなに優れていようとも。
(『ハッカーと画家 : コンピュータ時代の創造者たち』110~111ページより)
すぐれた創業者の4つの共通点
12:21~
FRUGALITY, FOCUS, OBSESSION, LOVE
(すぐれた創業者の4つの共通点)
Yコンビネーターの共同経営者であるポール・ブックハイトは、
「すぐれた創業者の共通点」について調査しました。
その結果、すぐれた創業者には、次の4つの特徴があることがわかりました。
- 倹約(高い生産性)(Frugality)
- 集中(Focus)
- 執念(Obsession)
- 愛(Love)
(※ポール・ブックハイトは、「Gmailを作った人」としても有名です。)
上記の「すぐれた創業者の4つの共通点」については、この下の動画で、ポール・ブックハイト自身が語ってくれています。(※Yコンビネーターの公式動画です)。
この下の動画のなかの、下記の時間のところで、それぞれの要素についての話が語られています。(下記の文章は、下の動画からの抜粋とその意訳です)。
- 「すぐれた創業者の4つの共通点」について
- 愛(Love)
- 集中(Focus)
- 倹約(高い生産性)(Frugality)
- 執念(Obsession)
33:34~
50:23~
17:55~
全員に受け入れてもらうのは無理。
誰にも愛されない平凡な商品のようなもの。
ごく少数の人たちの、強い興味を引くことが重要。
その人たちを夢中にすることができれば、かんたんに拡大、成長させることができる。
深くて狭い分野の、深い関心を得られるものから始める。
34:00~
ひとつのことに集中するからこそ、大企業に勝つことができる。
34:50~
より少ないリソースでより多くのことをする。
経営資源を有効に使う。
50:43~
創業者には、非合理的なほどの執念が必要。
(実例:イーロン・マスク)
(※下の動画は、英語の動画ですが、日本語字幕を表示させることができます。
※スマホのYouTubeアプリの場合は、映像の上をタップして、右上の歯車のアイコンを押してから、「字幕」→「自動翻訳」→「日本語」を選択すると、日本語字幕が表示されます。
※パソコンの場合は、映像の右下にある「字幕」アイコンを押してから、歯車のアイコン(「設定」)を押して、「字幕」→「自動翻訳」→「日本語」を選択すると、日本語字幕が表示されます。)
スタートアップ企業が、大成功できる理由
ここからは、「スタートアップ企業が、大成功できる理由」についての話になります。
一部の人の心をつかむだけでOK
13:15~
ONE NO VS. ONE YES
(一部の人の心をつかむだけでOK)
全員に賛成してもらえなくてもいいので、一部の人の心をつかむ事業アイデアに取り組む。
スタートアップは、たくさんいる投資家のなかの、一部の人に賛成してもらうだけで事業がおこなえます。(全員に賛成してもらえなくても大丈夫です。)
一方、大企業は、すべての上司に賛成してもらえないと行動できません。そのため、大企業は大胆な事業アイデアに取り組みにくいです。スタートアップが、大企業に勝てる理由は、大企業にはそのような欠点があるからです。
変化のスピードが速い分野を選ぶ
14:07~
FAST-CHANGING MARKETS
(変化のスピードが速い分野を選ぶ)
変化のスピードが速い分野を選ぶ。
そうすることで、動きの遅い大企業に対する優位性が生まれる。
変化が速い分野は、それだけ、必要な意思決定の回数や、商品の変更が必要になる回数が多くなります。
動きの遅い企業は、それについていけなくなります。
新しいプラットフォームにすばやく移行する
14:45~
PLATFORM SHIFTS
(新しいプラットフォームにすばやく移行する)
プラットフォームが変わることが、スタートアップ企業にとってのチャンスになります。
スマートフォンが登場したことで、スマホアプリの市場ができて、その市場で成功するスタートアップがたくさん出ました。
動きの遅い大企業は、そのような大きな変化についていくことができません。
ですが、小規模で動きの速いスタートアップ企業は、すぐに変化に対応することができます。
壮大なビジョンを描こう!
ここまで、サム・アルトマンが語る「起業で成功する12の秘訣」を紹介してきました。
おそらく、これらの「秘訣」のなかでも、とくに重要なのは、「壮大なビジョンを描く」ということだと思います。
時代の大きな流れから見ても、「壮大なビジョンを描く」ことで、優秀な人に協力してもらうことができるようになり、お客さんからも選ばれるようになり、投資家からも支持されるようになるでしょう。
ですので、あなたもぜひ、「実現不可能に思えるような壮大なビジョン」を描いてみてください。
あなたが描くビジョンが、たくさんの人が「協力したい」「参加したい」と思うものであれば、成功に向かって大きく近づくことができるでしょう。
(最後に、サム・アルトマンが、X(Twitter)への投稿で引用した、次の言葉を紹介します。(意訳です)。)
小さなことを計画してはいけません。そうしたものには、人の心をかき立てるような魔法の力は無く、おそらく、その計画自体も実現されることは無いでしょう。
大きなことを計画しましょう。気高く理にかなった計画は、一度実現されれば決して朽ちることは無く、私たちがこの世を去った後もずっと生き続け、力強くメッセージを伝え続けることができるということを忘れずに、希望を胸に高みを目指しながら、あなたの作品を作り上げてください。
あなたのすばらしい作品は、私たちの子どもたちや孫たちにとっての、美しい導きの光となるのです。
―― ダニエル・バーナム(建築家)